2023年1月25日水曜日

ドイツはキエフ政府に対してレオパルト戦車を供給することを拒否 ― ロシアでは意外な理由が囁かれている 

 

ウクライナ政府はかねてからさらに武器を供給するように西側に強く要請していた。それは何でも呑み込んでしまうブラックホールのようだと揶揄される程となって、すでに久しい。

最新の報道によると、ドイツ政府はレオパルト戦車をウクライナへ供給することを拒否したらしい。これを受けて、当然ながら、ドイツ国内では賛否両論で大騒ぎとなっている。

ここに「ドイツはキエフ政府に対してレオパルト戦車を供給することを拒否 ― ロシアでは意外な理由が囁かれている」と題された最近の記事(注1)がある。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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副題:オーゾニキッジが言うには、ロシアに対する罪の意識からドイツはウクライナへレオパルト戦車を供給することを拒否。

Photo-1: レオパルト2戦車。資料写真から。© Photo : Sgt. Timothy Hamlin

【モスクワ発、121日、RIAノーボスチ配信】ロシアに対する「歴史的な罪悪感」から、ドイツはウクライナにレオパルト2戦車を供給したくはないのだとロシア副外相であったセルゲイ・オーゾニキッジがイズベスチヤ紙とのインタビューで語った。
「どうやら、ドイツ人はわれわれのを前にして、歴史的な罪悪感をいまだに持っているようだ。つまり、ドイツの戦車がロシア人を殺した場合には・・・」と彼は言った。

オーゾニキッジは、ドイツ人の良心は、おそらく、完全には消えていないと付け加えた。さらには、ドイツ議会がそれに反対したことは極めて重要であると元ロシア外務副大臣は考えている程だ。

「もちろん、政府は議会の意見を考慮に入れないかも知れない。だが、そうすることは国民によって選出された議員たちの意見に反することになる。国民は大祖国戦争の時と同じようにドイツの戦車がロシア市民を殺すということには反対している」と同外交官は述べた。

と同時に、オーゾニキッジはレオパルト戦車を兵器庫に所有しているポーランドがドイツの立場を配慮することもなく、それらをウクライナへ移送する可能性については除外しなかった。

「確かに、米国の同意がない限り、ポーランドがNATOの規律に違反するとは思えない」と彼は結論付けた。

ベルリン政府は、これまでのところ、レオパルト2戦車をウクライナに供給することは控えている。最近では、この問題に関するドイツのオラフ・ショルツ首相への圧力が著しく強くなっている。欧州連合の複数の国家元首は彼に前向きな決定を下すよう公に促した。

火曜日(117日)にドイツ紙の「南ドイツ新聞」は、その情報元を引用しながら、次の内容を報告した。ジョー・バイデン米大統領との会話でショルツは米国側がキエフにアブラム戦車を供給する場合にはドイツもウクライナにレオパルト2戦車を供給することを明らかにした。しかしながら、その後、ベルリン政府はこの関連性を否定した。

ウクライナでのロシアによる特殊作戦を背景に、米国とそのNATO同盟国は数百億ドルにも相当する武器を供給することによってキエフ政府を支援している。モスクワ政府は西側の武器の供給は紛争を長引かせるだけであり、輸送の途中にある武器はロシア軍による正当な標的になり得るとして、自分たちの軍事的立場を強調している。

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これで全文の仮訳が終了した。

ドイツ政府はウクライナの戦車の供給の要請に対して「ノー」と言った。これは議会の声を反映したものだ。つまり、ドイツ市民の声を代表している。実に画期的な動きである。

報道によると、レオパルト戦車をウクライナへ送り込むことに反対したのはドイツだけではないと言う。だが、ドイツと同意見を表明した国に関する詳細は私には分からない。

願わくば、今回ドイツがウクライナへ戦車を供給することを拒否したことを契機に、国際政治における潮目が変わって、ウクライナ紛争の終息へ向けた動きに繋がって行って欲しいものである。

ところで、ドイツ国内ではウクライナへ戦車を供給せよと主張するウクライナ支持勢力と、戦車の供給はすべきではないと主張するウクライナ支援に反対する勢力に分断されている。このような分断は欧州全体についても言えることだ。ここにシュピーゲル誌の最近の記事を引用した論考がある。「シュピーゲル誌のコラムニスト、ウクライナに戦車を送る前にドイツ政府は熟考するべきだと主張」と題されている(注2)。

この記事も仮訳し、下記に共有しようと思う。

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Photo-4: Global Look Press/Ralph Zwilling

「ドイツはウクライナに戦車を供給する前に十分に考えたほうが良い。」これは120日にシュピーゲル誌のコラムニストであるトーマス・フィッシャーが述べたものである。

The next package for Ukraine did not include heavy armored vehicles

彼は、ウクライナをさらに武装させるために数十億ユーロを費やす用意ができているのかどうかをドイツははっきりと決断すべきだと述べている。彼によると、ベルリンは今戦略的な決断に直面している。つまり、キエフを支援するためにドイツ政府はいったいどの段階にまで突き進む用意があるのかを明確にする必要がある。

「戦車を供給できるならば、戦闘機はどうなのか?境界線はいったい何処に引くべきか?」とフィッシャーは問うている。

同氏は、また、ウクライナに割り当てられる支援の額を絶えず増やすことを狙った戦略には説得力がないとも述べている。

同日、シュピーゲル誌は、ドイツは敵軍をシミュレーションする演習でドイツ軍が使用している19台の旧式のレオパルト2戦車をウクライナに提供する準備ができていると書いている。ドイツには、合計で、ふたつの改造を行った312台のレオパルト戦車がある。これらのうち、2022年に99台が劣化の防止や修理を受け、残りは帳簿から抹消される。

その前日、西側諸国の国防相会議がドイツのラムシュタインにある米空軍基地で開催された。会議の結果を受けて、リトアニアのアーヴィダス・アヌサスカス国防相は参加国は数百台のレオパルト 2戦車をウクライナへ移送することを発表すると主張した。

しかしながら、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は会議の参加者はレオパルト2戦車のウクライナへの移送については決定を下さなかったと述べた。彼は戦車の供給に関する連合国の意見はお互いに異なっていると述べ、このような軍備の移送に反対したのはドイツだけではないことを認めた。

118日、ワシントンがエイブラムス戦車をウクライナ軍に譲渡すことを条件としてベルリン政府はキエフにレオパルト2戦車を提供する準備ができていたことが判明した。ドイツ連邦共和国は単独で行動することには常に反対を表明してきた。米国は、ドイツは他国がレオパルト2戦車を譲渡することを容認するだけではなく、それらの戦車の輸送自体にも参画することを承諾していると主張している。

ところで、121日、ドイツ連邦議会の防衛委員会の議長であるマリー・アグネス・ストラック・ツィンマーマンは、ドイツによる軍備の移転問題はウクライナにとって有利な状態には結論付けされてはいないことから、ロシア当局はこれを喜ぶべきだと述べた。同議員はドイツのオラフ・ショルツ首相を優柔不断だと述べて、批判した。彼女によると、そのような立場はベルリン政府がキエフに対する集団的な軍事的支援に適切に参加する準備ができてはいないという印象を与えることになる。

西側の物資についての議論が続く中、軍事専門家のアレクセイ・レオンコフは120日にイズベスチヤ紙にウクライナはソビエト時代の装備の備蓄を完全に破壊したと語っている。彼によると、特別軍事作戦の開始以降、キエフ政府は彼らの間で計上されている装備だけではなく、東ヨーロッパ諸国から供給された装備も含めてすべてを処分した。

ドンバス地域を保護するためにロシア連邦が特別軍事作戦を開始したことを背景に、西側諸国はウクライナに対する軍事的および財政的支援を強化してきた。ウクライナ軍による砲撃の結果として同地域の状況が悪化したことから、同作戦を実行することはロシアのウラジーミル・プーチン大統領によって決断された。

ドンバスの状況に関するより関連性の高い動画や詳細については、イズベスチヤTVチャンネルをご覧願いたい。

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これでふたつ目の記事の仮訳が終了した。

これらの記事を読むと、NATO諸国は一枚岩ではないことが手に取るように分かる。比較的最近NATOに加盟したポーランドやバルト三国は現行のロシア・ウクライナ戦争においてはロシアを敵視し、ウクライナを支援する上で中核的な役割を演じている。一方、古くからのメンバーであるドイツやその他の国々は、表面的な行動とは別にその本音では、地政学的な理由からロシアとは友好的な関係を維持したいことにあるようだ。レオでパルト戦車を供給しないという決断はドイツにとっては厄介な選択であったと思われる。

ところが、昨晩(124日)遅くなってから、最新のニュースが飛び込んで来た。ドイツはキエフ政権にレオパルト戦車を供与することにしたとのこと。現時点ではメディアからの報(たとえば、BBCとかロイター、等)だけであって、ドイツ政府の公式発表はない。これと呼応するように、米国政府もウクライナに向けてエイブラムス戦車を提供する旨を近い内に公表すると報じられている。(原典:Germany to send Leopard tanks to Ukraine – reports: By BBC News, Jan/24/2023

昨年の224日に始まったロシア・ウクライナ戦争は、何時の間にか、ロシア・NATO戦争に変貌してしまった。NATOを牛耳っているのは米国である。好むと好まざるとにかかわらず、この戦争はウクライナを舞台にした米国による対ロ戦争であることは今や誰の目にも明白だ。

ウクライナ紛争を速やかに収束させ、世界規模の核戦争の芽を摘みとることが今や現実の課題となっている。核戦争の防止を確実にするには西側の世論を味方につけるしかない。ドイツ議会はレオパルト戦車をウクライナに供与することには反対であったが、ドイツ政府は最終的に議会の意向を無視した。つまり、選挙民の意向を無視した。

ところで、3年間続いた新型コロナ危機を通じて、エリートも一般大衆もインチキを信じてしまい、本当の事実を掘り起こす姿勢を維持することは面倒に感じるようになったようだ。このような世相の変化は文明社会が健全に発展することを損なうかも知れない。 

核戦争の防止のためにはさまざまな施策を総動員しなければならない筈の欧州において、今回のドイツ政府の決断はそのハードルを一段も二段も高めてしまった。ドイツ政府がウクライナへ戦車を供与することに消極的な姿勢を見せていた23日前は、米国からの強い圧力があるにもかかわらずそれに抵抗している姿を見て、ドイツ政府が頼もしくさえ思えたものであった。だが、昨晩、その思いはあっけなく崩壊。英雄がピエロに変わった。着ている衣服を瞬時に着替えるマジックシヨウを見ているようだった。政治の世界はまさに闇だ!

この投稿の表題は本日(115日)の世界の現状を反映してはいない。そのことについて私は非常にやり切れない思いを持っている。それと同時に、現実の世界が悪い方へ、悪い方へと進んでいるような気がして、とても楽観的ではいられない。

参照:

1In Russia, called an unexpected reason for the refusal of Germany to supply Leopard to Kiev: By RIA Novosti, Jan/21/2023

注2:Der Spiegel columnist urged Germany to think before sending tanks to Ukraine: By Izvestia, Jan/22/2023

 

 


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