2020年12月18日金曜日

最新の研究によると、グリホサートを主成分とする除草剤は環境ホルモン様の挙動をする

 

モンサント社(2018年にドイツのバイエル社に買収された)が開発し、製造するグリホサートを主成分とする除草剤「ラウンドアップ」は環境ホルモンのような挙動を示すらしい。環境ホルモンの特徴は非常に微量であっても魚類や爬虫類、哺乳類の性ホルモンをかく乱し、次世代に対する影響が大きいという点で知られている。環境ホルモンは内分泌かく乱物質とも称される。今までに環境ホルモンとして知られている環境汚染物質にはDDTPCB、トリブチル錫、ダイオキシン、有機リン系やネオニコチノイドを中心とした農薬、等がある。

ここに「最新の研究によると、グリホサートを主成分とする除草剤は環境ホルモン様の挙動をする」と題された記事がある(注1)。グリホサートを主成分とする除草剤とは商品名では「ラウンドアップ」で代表される。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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除草剤として広く使われているグリホサートは人のホルモンをかく乱するという悩ましい証拠が懸念を呼んでいるとする新たな研究結果が、先週、USRTK(訳注:US Right To Knowと名付けられている米国の非営利団体)によって報じられた。 情報源: USRTKCarey Gillamによる。

Chemosphere誌によって出版された最新の論文は「グリホサートとその内分泌かく乱作用を示す主要な特性 - 文献調査」と題されており、3人の著者によるものである。グリホサートは内分泌かく乱作用を示す10個の特性の内で8個に該当すると結論付けた。しかしながら、グリホサートが人の代謝システムに与える影響をより明確に理解するには有望な要因対照(コホート)研究をさらに行うことが必要であると著者らは付け加えてもいる。

著者のフアン・ムノス、タミー・ブリーク、グロリア・カラフはチリのタラパカ大学に所属し、彼らが著した論文はグリホサートに関する機械的な証拠を内分泌かく乱物質(EDC)であると集約したもので、最初の文献調査であると述べている。

研究者らによると、グリホサートを主成分とするモンサント社の有名な「ラウンドアップ」除草剤は性ホルモンの生合成を変化させ得ることを示す証拠があるとのことだ。

EDCは体内のホルモン様の挙動を示し、ホルモンを干渉し、身体の発達や生殖上の問題を引き起こすばかりではなく、脳や免疫の機能も損なう。

さまざまな動物に関する研究が今年の始めに出版され、それらの研究はグリホサートへの暴露は生殖器に影響を与え、生殖能力を阻害することを示した。

グリホサートは世界でもっとも広範に用いられている除草剤であって、140ヵ国で販売されている。1974年にモンサント社によって商業的に導入され、この化学品は世界中の消費者や地方自治体、エネルギー事業者、農家、ゴルフコース事業者、他が多用する「ラウンドアップ」やその他何百種もの除草剤の主要成分である。

イーモリ―大学ロリンズ公衆衛生大学院のダーナ・バー教授は「グリホサートが内分泌をかく乱する性質を有していることは証拠が歴然と示している」と言った。 

「グリホサートは他の数多くの内分泌かく乱性の農薬と構造的な相似性を持っていることから、このことがまったく想定外であったとは必ずしも言えない。しかしながら、グリホサートの使用は他の農薬を遥かに凌駕していることから、心配は遥かに大きい」とバー教授は言う。彼はアメリカ国立衛生研究所が資金を提供するイーモリ―大学内にある人に対する暴露を究明する研究センターでの研究プログラムを統括している。「グリホサートは非常に多くの作物に使用され、非常に多くの量が住宅地でも使用されており、複合的ならびに蓄積的な暴露は相当なレベルになっていることであろう。」 

フィル・ランドリガンは「グローバル汚染・健康観測所」の所長を務め、ボストン大学の教授も兼務する。彼はこの論文はグリホサートが内分泌かく乱物質であることを示す「強固な証拠」を纏めてくれたと述べている。

「この報告書はグリホサートは健康に対して幅広い悪影響を持っていることを示しており、実に多くの文献と整合性を持っている。これはグリホサートは人の健康には良性の化学物質であるとしてモンサントが長年主張し続けて来た説明を覆すものだ」とランドリガン教授は言う。 

殺虫剤や工業的溶剤、プラスチック、洗剤、その他の商品に一般的に使用されている化学品がホルモンとその受容体との関係性をかく乱する能力を持っていることを報告するさまざまな論文が出版されてからというもの、1990年代以降、EDCは心配の種となっていた。

科学者らはホルモンの作用を変えてしまう化学品について一般的に10個の機能特性を認識している。それらは内分泌かく乱物質の「主要な特性」と称されている。それらの10個の特性は下記の通りである: 

EDCの作用: 

 循環するホルモンの濃度分布を変える。

 ホルモンの代謝または排除に変更を引き起こす。

 ホルモン生成細胞またはホルモン応答細胞の最終的な結末を変える。

 ホルモン受容体の発現を変える。

 ホルモン受容体に拮抗する。

 ホルモン受容体と相互作用する。あるいは、ホルモン受容体を活性化する。

 ホルモン応答細胞における信号変換を変える。

 ホルモン生成細胞またはホルモン応答細胞における後成的修飾を変える。

 ホルモン合成を変える。

 細胞壁を介したホルモン輸送を変える。

機械的なデータの文献調査を行った結果、グリホサートは、2項目の例外を除いて、重要な特性の全てに合致するとこの新論文の著者らは報告している。「グリホサートに関しては、ホルモン受容体に拮抗する能力を示す証拠はない」と彼らは言う。同様に、著者らによると「ホルモンの代謝や排除に対する影響を示す証拠も見当たらない。」 

最近の2030年間はグリホサートと癌との関連性についての研究に多くの関心が寄せられてきた。特に、非ホジキンリンパ腫(NHL)に関して。2015年、世界保健機構の国際癌研究所はグリホサートには「おそらく発がん性がある」と分類した。

米国では10万人以上がモンサント社のグリホサートを主成分とする除草剤への暴露が彼らや家族の一員にNHLをもたらしたとして同社を告訴した。

また、この全米規模の訴訟で原告らはモンサントは同社の除草剤の危険性を隠蔽しようとしたとも主張した。モンサントは三つの訴訟でそれらのすべてにおいて敗訴し、最近、モンサントを吸収したドイツのバイエル社はこれらの訴訟を法廷外で決着をつけようとして1年半を費やした。

この新論文の著者らは「この化学物質は大量に使用されており、そのことが環境中で非常に広範にわたる汚染をもたらしいぇいる」と述べ、人々が食品を通じてこの除草剤にますます多く暴露されることを含めて、グリホサートがあらゆる場所で使用されている現状を特に重要視している。

研究者らはこう言った。「食品中に一般的に発見されるグリホサートの分解物の濃度は低く、安全であると規制当局が述べているにもかかわらず、この化学品によって汚染された食品を消費することの潜在的危険性は決して無視することはできない。特に、ミルクや肉類、魚類に比べてより多くの汚染を受けている穀類やその他の植物性食品についてはなおさらのことである。」

米国政府の文書によると、グリホサートの残留物質は広範な食品から検出されており、これらの食品には有機農法によるハチミツやグラノーラバー、クラッカー、等も含まれる。

また、カナダ政府の研究者も食品中のグリホサート残留物質に関して報告している。カナダのアルバータ州農林省に所属する農業食品研究所の学者らによって2019年に発刊された報告書によると、彼らが調査を行った200個のハチミツのサンプル中で197個のサンプルからグリホサートが検出された。

グリホサートが人の健康に与える影響に関しては、食品による暴露も含めて、その懸念は募る一方であるのだが、米国の規制当局は本化学物質の安全性については断固として防衛している。米環境保護庁は「グリホサートの暴露がもたらす健康に対する危険性は何も見つかってはいない」との姿勢を維持している。

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これで全文の仮訳が終了した。

内分泌かく乱物質の厄介な点は非常に微量であっても内分泌の機構をかく乱することである。たとえば、ppmレベルの残留物質の濃度では危険性を示さなくても、その1000倍も希釈されたppbレベルの濃度で危険性が顕在化するといった具合だ。世界中の食品がグリホサートによって汚染されている昨今、しかも有機農法による食品であってさえもそれらの多くが汚染されている事実を見ると、次世代の健康については楽観的ではいられない。米や麦、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆といった植物性の食品に汚染が著しいと言う。大規模農業によって生産された北米産の農産物を大量に輸入し、毎日消費している日本の将来は大ピンチである。

ところで、「モンサント、グリホサート(あるいは、グリフォサート)、遺伝子組み換え食品、除草剤」といったキーワードを用いた過去の投稿を参考情報として下記に列記してみます。20196月までで21件あります。ご興味がありましたら検索してみてください。

(21) 2019/06/03、「グリフォサートはわれわれが想像する以上に悪い」

yocchan31.blogspot.com/2019/06/blog-post.html 

原典:Glyphosate Worse Than We Could Imagine: By F. William Engdahl, NEO, Apr/14/2019

(20) 2019/05/28、「遺伝子組み換えのジャガイモを作り出した科学者が危険な真実を暴露 - 独占インタビュー」
yocchan31.blogspot.com/2019/05/blog-post.html

原典:The Creator of GMO Potatoes Reveals The Dangerous Truth - Exclusive Interview: By Sustainable Pulse, Oct/09/2018

(19) 2019/04/02、「最近のグリフォサート由来の癌の訴訟に関して米陪審員はバイエルに対して8千百万ドルの損害賠償を裁定」
yocchan31.blogspot.com/2019/04/8.html

原典:US Jury Punishes Bayer with 81 Million Dollar Damages Ruling in Latest Glyphosate Cancer Trial: By Sustainable Puls, Mar/28/2019

(18) 2019/03/08、「このままでは欠かすことができない昆虫さえもが絶滅してしまう」
yocchan31.blogspot.com/2019/03/blog-post.html

原典:We’re Killing Off Our Vital Insects Too: By F. William Engdahl, NEO, Mar/02/2019

(17) 2019/02/17、「グリフォサートの致死性を明らかにしたことによりスリランカ人の専門家が著名な科学賞を受賞」
yocchan31.blogspot.com/2019/02/blog-post_40.html

原典:Sri Lankan Experts Receive Top Scientific Award for Revealing Lethal Truth about Glyphosate: By Sustainable Pulse, Feb/04/2019

(16) 2018/10/31、「人の遺伝子編集における地政学」
yocchan31.blogspot.com/2018/10/blog-post_31.html

原典:The Geopolitics of Human Gene Editing: By Ulson Gunner, NEO, Oct/19/2018

(15) 2018/10/22、「遺伝子操作によって再合成された「馬痘」が引き起こすかも知れない天然痘の大流行の可能性に科学者たちはびびっている」
yocchan31.blogspot.com/2018/10/blog-post_22.html

原典:Scientists Freak Out Over Pandemic Potential Of Genetically Engineered Smallpox: By Tyler Durden, ZEROHEDGE, Oct/14/2018

(14) 2018/08/29、「モンサントの有罪判決は始まったばかり」
yocchan31.blogspot.com/2018/08/blog-post_29.html

原典:Monsanto Guilty Verdict Is Only Beginning: By F. William Engdahl, NEO, Aug/15/2018

(13) 2018/01/16、「機密の裁判所文書においてモンサント社は安全性試験が未完了の「ラウンドアップ」除草剤に発癌性があることを認めている」
yocchan31.blogspot.com/2018/01/blog-post_16.html

原典:Monsanto Admits Untested Roundup Herbicide Could Cause Cancer in Secret Court Documents: By Sustainable Pulse, Aug/09/2017

(12) 2017/06/15、「遺伝子組み換え大豆に危険なレベルの除草剤グリフォサートを検出」
yocchan31.blogspot.jp/2017/06/blog-post_15.html

原典:Potentially dangerous levels of glyphosate found in GM soy: From THE DETOX PROJECT, detoxproject.org/glyphosate/potentially-dangerous-level..

(11) 2017/06/11、「グリフォサートの機密データの中に腫瘍を引き起こす証拠を発見」
yocchan31.blogspot.com/2017/06/blog-post_11.html

原典:New Tumor Evidence Found in Confidential Glyphosate Data: By Sustainable Pulse, May/31/2017

(10) 2017/01/10、「バイエル社の農薬がミツバチを不妊化している」
yocchan31.blogspot.com/2017/01/blog-post.html

原典: Bayer AG Makes Bee Contraceptives: F. William Engdahl, New Eastern Outlook, Aug/13/2016,  journal-neo.org/2016/08/.../bayer-ag-makes-bee-contraceptive...

(9) 2016/06/27、「除草剤グリホサートに対する反対が驚くほど拡大」 
yocchan31.blogspot.com/2016/06/blog-post_43.html

原典: The Amazing Glyphosate Revolt Grows: By F. William Engdahl, New Eastern Outlook, May/23/2016, journal-neo.org/2016/.../the-amazing-glyphosate-revolt-grows...

(8) 2015/12/24、「不信感が募るばかり - 「遺伝子組み換え作物のリスク評価は欠陥だらけ」と専門家が指摘」 yocchan31.blogspot.com/2015/12/blog-post_24.html

原典:Growing Doubt: a Scientist’s Experience of GMOs. Flawed Processes of GMO Risk Assessment: By Jonathan Latham PhD, Global Research, Sep/02/2015

(7) 2015/09/02、「アルゼンチン - モンサントによって汚染された国」
yocchan31.blogspot.com/2015/09/blog-post.html

原典: Argentina: The Country that Monsanto Poisoned? Photo Essay: By Syddue, Dec/29/2014, overgrowthesystem.com/argentina-the-country-that-monsanto-... 

(6) 2015/08/27、「遺伝子組み換え食品には安全性の証拠が出揃ってはいない
yocchan31.blogspot.com/2015/08/blog-post_27.html

原典: No scientific evidence of GM food safety: By Nafeez Ahmed, INSURGE Intelligence, Jul/13/2015

(5) 2015/06/22、「モンサント社の元社員であった一流専門誌の編集者、その地位から解任される」
yocchan31.blogspot.com/2015/06/blog-post.html

原典: Former Monsanto Employee Fired from Major Scientific Journal’s Editor Position: By Christina Sarich, Global Research, Mar/30/2015, www.globalresearch.ca/former-monsanto-employee-fired-fro...

(4) 2015/06/15、「モンサントの除草剤と発がん性との関連性 - WHOは公表した調査結果を撤回しそうもない」
yocchan31.blogspot.com/2015/06/who.html

原典:World Health Organization Won’t Back Down From Study Linking Monsanto to Cancer: By Derrick Broze, The Anti-Media, Mar/30/2015, theantimedia.org/world-health-organization-wont-back-down-... 

(3) 2014/06/13、「遺伝子組み換え食品による著しい炎症反応 - 豚を使った試験で」
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post_13.html

原典:Large Pig Study Reveals Significant Inflammatory Response to Genetically Engineered Foods By Dr. Mercola, May/18/2014, articles.mercola.com/sites/.../gmo-foods-inflammation.aspx

(2) 2014/06/07、「まさに信じがたい - 遺伝子組み換え作物に反対する人を黙らせようとしたシンジェンタ社の対応」
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post_7.html

原典: Syngenta methods of silencing GMO opposition are unbelievable: By William Engdahl, RT, May/15/2014, http://on.rt.com/yfwt3v 

(1) 2014/06/02、「モンサントの除草剤と腎疾患との関連性」
yocchan31.blogspot.com/2014/06/blog-post.html

原典: Monsanto's Roundup may be linked to fatal kidney disease, new study suggests: By RT, Feb/27/2014, http://on.rt.con/do84uy


参照:

1New Research Adds Evidence that Weed Killer Glyphosate Disrupts Hormones: By Sustainable Pulse, Nov/19/2020




4 件のコメント:

  1. 登録読者のシモムラです.読みやすい翻訳に感謝もうしあげます.七年前にハバロフスクで半年暮らしておりました.大きな生鮮市場があり,朝鮮人,中国人,中央アジアのチュルク語系の人びとが,故郷の食品を商っておりました.ロシア人は中国からの食品は警戒してあまり買いません.大変安いのに「有機農法による産物」と銘うってます.しかし,多くは化学肥料漬け,除草剤漬け,とロシア人は疑っているのです.沿海州のロシア人農家産のものは,昔ながらの農法なので,高い割にはよく売れています.私はシーщи(発酵キャベツ入りの汁物を指します)は自分で作るので,沿海州もののキャベツ,赤蕪,人参,ジャガイモ(本当はこれはシーには入れないのですが,自分が好きなので加えます)とダゲスタン産のスメタナをよく使いました.美味しいですよ.
    ご推薦の(15) 2018/10/22、「遺伝子操作によって再合成された「馬痘」が引き起こすかも知れない天然痘の大流行の可能性に科学者たちはびびっている」を読みました.また予防衛生協会の記事も読んでおります.知的好奇心を満足させる記事満載ですね.ありがとうございます.

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  2. シモムラさま

    コメントをお寄せいただき有難うございます。
    ボルシチにスメタナを加えますと、コクが一段と出て、最高ですよね。ウクライナで過ごした1年を想い起します。ルーマニアでもこのスメタナみたいなクリームをスープに放り込むと、美味しさが抜群となります。発酵したキャベツは当地ではロールキャベツに使用されます。あるいは、発酵したキャベツではなくて生のキャベツを茹でて柔らかにし、それを使う人もたくさんいるようです。ロールキャベツはルーマニア語では「サルマーレ」と称され、人がたくさん集まる結婚式等で多用されています。トルコ語が語源らしく、「包む」という意味だそうです。また、キャベツの代わりにブドウの葉で包むこともありますが、私はどちらかと言うとキャベツ派です。
    拙文を読んでいただき、有難うございます。励みになります。

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  3. 記事とは無縁のことを書くことをおゆるしください.今ある英語の句の意味を了解するに至ったのです.高校三年のとき,『現代英米作家選』という受験参考書に,ジョイスの短編集The Dublinersからの一章The Deadの抄録がありました.主人公のGabrielが妻のGrettaから少女時代のロマンスを聞かされる場面で,十七歳の恋人Michael Fureyが彼女が荷物をまとめている,二階の窓に向かって砂利粒を投げつけるところがあるのです.The window was so wet I couldn't see, so Iran downstairs as I was and slipped out the back into the garden and there was the poor fellow at the end of the garden, shivering.”このas I was が漠然と「いつものように」の意味だと思っていました.ところが七年前ハバロフスクで見つけたТигрという虎の民族学研究書を読んでいたところ,アムールの農家から虎が豚を咥えて逃走するのを,頭にタオルを巻いて,夜着姿の主婦が麺の延べ棒を振りかざし,その虎を追いかけている絵に気がつきました.露語の解説で в чём былаとなっているではないですか.чёмは関係代名詞で 着用を意味する前置詞вが前接していますから,これは「着の身着のまま」という意味です.Grettaさんもパジャマか何かを羽織ったまま,階段を走りおり,冬の氷雨の降る中庭に飛び出たのでしょう.因みにOpen Shelfというサイトには和訳があり,それは「窓はすっかりぬれていて見えなかった、それで私はそのまま階段を駆け下りて、…」と曖昧に訳されておりました.五十四年の後に露語の知識のお蔭で,正しい解釈に到達したわけです.ジョイスはロシアでも人気がありました.1983年のレニングラードではДом Книгиでロシア語の注釈のついた英語版が売り出されたのですが,私の番まで残りませんでした.代わりに松尾芭蕉の『奥の細道』の露訳を購入しました.

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  4. シモムラさま

    何回か前のコメントでは「論文を書くにはロシア語が最適だ」と言っておられたよね。そのことを今思い出しています。ここに引用された事例で見ると、英語では身に着けているものを言及しているのかどうかは必ずしも断定できませんが、ロシア語ではその状況が厳密に分かる。ロシア語の文法は厳密に構成されているということですね。この英語の文章では「dressed just as I was」と単語をひとつふたつ付け加えていれば、英語を外国語とする私たちにとっても明快になるのですが、英語で育った人たちにはこれで十分だということなんでしょうね。
    私の高校時代の英語の副読本は1年生ではディッケンズ、2年生ではモーム、3年生ではバートランド・ラッセルでした。モームは話の内容が魅力的でもっと先まで読もうとさせる何かがありましたが、ラッセルは実に難解で苦労しました。残念ながら、ジョイスはまったく知らずに過ごしていました。

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